零細出版社が電子書籍にイマイチ反応が鈍い理由

最近、電子書籍のプラットフォームの営業マンと長話をする機会に恵まれた。小所帯の出版社に電子書籍の出典を依頼しても、イマイチ反応が薄くて苦労しているという話だった。

もちろん事情は各社で異なるが、電子書籍用の細かい経理処理ができないというのが、多くの零細出版社で共通する事情のはずだと私は思っている。

出版社の経理は主に2つある。

一つは一般の会社も行う給与計算や経費精算などの経営経理だ。もう一つは書店の決算をとりまとめる取次会社との経理処理で、出版経理などと呼ばれている。出版物は委託制度のため、売上回収のタイムラグがあるため、経理が非常にややこしい。売上の勘定の多くが、未収金として立つようなものと想像していただければわかりやすいかも。

電子書籍をはじめると、このややこしい出版経理に加えて印税支払いの処理が膨張して、現状でも余裕が無い人的リソースがさらに逼迫されて、二の足を踏んでいるのというのが私の実感である。

書籍の印税は名前の通り、売上の分配という意味があり、本の売上に乗じて支払うのが本来の主旨である。しかし、実際は5000冊なり本を印刷するタイミングで印税をまとめて払う出版社が多い。特に初回出版時の印税一括支払いは、原稿料の代わりとしての印税の前払いという意味合いが強いのだが、まとめて印税を支払って出版社が通常経理処理を軽減しているという側面がある。

現状、売上の目処が立たない電子書籍では、レベニューシェアという売上分配制度を出版社としても取らざるをえない。著者にしても、月々少額の印税が支払われるというのはあまり気持ちもいいものではないだろうが、バックヤード処理をする出版社の担当者も毎月、プラットフォームから売上を報告をとりまとめて、100人以上いる著者への支払い総額を計算して、振込手続きを行う必要が出てくる。

「小口決済ぐらい慣れろよバカモノ」と他業界の方からドヤされても、「その通りでございます」と全面降参して平身低頭するしかない。出版業界のピラミッドの底部に存在し、でもボリュームゾーンである零細出版社では、小口決済を自動化するノウハウもないし、それを支援する共通プラットフォームもないのが現状である。

零細出版社のほとんどが個人商店程度の組織体である。経理のような間接部門に割ける人的リソースの余裕はほとんどない。

経理処理のことで悩むのなら、面倒くさい電子書籍の話を先送りしようというのが経営や現場に本音としてあるのでは、と私は感じている。

だから、電子書籍プラットフォーム競争では、出版社側の経理計算を軽減するようなインターフェイスを用意したところが最終的には勝つのではと私は予想している。勝ち組候補の最筆頭はやはりAmazonだろう。リアルな物品流通でも、すでにOracleをベースにした「セラーセントラル」や「ベンダーセントラル」などの自動化された売上報告インターフェイスを提供しており、ソリューション能力は他のプラットフォームを大きく引き離している。

Amazonの強さはすでに自動化された決済処理機構をプラットフォームの中に組み込んでいることにもある。それは、iTunes、iTunesストアとアプリ開発支援システムをバックにして携帯電話業界に乗り込んできたアップルにも似た強さである。ただ、商品が優れているのではなく、必ずしも優れた事務処理能力やIT技術を持っているわけではないユーザーや開発者をアシストできるシステムを持ったところが最終的に勝つ。

発売間近と噂されているKindleだが、大手出版社の作品だけではなく、どれだけ零細出版社の作品を集められるか、私は楽しみにしている。